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Amazon.co.jp:わたしの生涯
 小学生のころにヘレン・ケラーについて書いた伝記を読んで、夏休みの読書感想文を書いたことがある。いまとなっては何を書いたかなど忘れてしまったけれど、ありきたりな「見えない、聴こえない、言えないという3重苦から抜け出した偉大な人」という印象をいだいたまま、それきり彼女について深く考えたことはなかった。
 伝記の記述のされ方や、わたし自身の未熟さのために、彼女はすばらしい人であり、わたしとは違うような何かを持っていたのだろう、と単純に考えた記憶がおぼろげながら残っている。

 本書『わたしの生涯』は、彼女がラドクリフ・カレッジに在学中で20歳だったころに書いた "The Story of My Life" と、中年をすぎてから書いた "Midstream" の2つの自伝の翻訳である。前者は「暁を見る」、後者は「濁流を乗りきって」と「闇に光を」とに翻訳され、全部で3章の構成になっている。

 ヘレン・ケラー。
 「すばらしい人であり、わたしとは違うような何かを持っていた」
 というのは真実であり、まちがいであった。
 これを読んだのは、おもに電車での移動中の空き時間を利用してのことだった。ときおり文章を追いかける目線をあげて、車窓の外の風景を眺めやると、まるでヘレンの魂に寄り添われているような気がした。
 100年以上も前の時代であり、文化的にも宗教的にも、社会的にも異なった背景を持っているにもかかわらず、彼女の言葉にはふしぎと近く感じられる。もちろん、違うところも多くあり、そこからは学ぶものも大きい。
 なによりも目をみはらずにはいられないのは、風景や日常のこまごましたこと、友人たちとの交流の描写である。とくに、自然のいぶきを、詩の一節なども交えつつ描く筆致は(古いながらも)美しい。
 それを見るにつけ、目と耳とに身体的制限があった彼女は、まさしく「魂で見て、聞いていた」のだろうなと心が震えた。そして、身体的な制限により、閉ざされていた彼女の魂を世界へと開放した、アン・サリバン先生の教育にも。
 すこし話が飛ぶが、イギリスの難聴を持つパーカッショニスト、エヴリン・グレニーは、そのドキュメンタリー映画である "Touch the Sound そこにある音"の中で、こう語っている。
―「どうやって聴くの?」と聞かれたら、こう答えるわ。
―「さあ、わからないけれど体を通して聴くのよ。自分をオープンにして。」

 自分をオープンにし、世界とつながる。そして、見て、聴く。
 目にも耳にも身体的障害などなくても、「見えず」「聞こえず」ということは多い。それは、対象に対して感性が閉じているからだ、と思う。
 (卑近な例でいえば、「目の前にあるものを一生懸命探している」なんて、よくある例ではないだろうか。見ているはずなのに、見落とす、というのも社会には多い)。
 魂で見ることも聴くことも、ごく当たり前に誰にでも備わっているはずのものであり、ヘレンやエヴリンが何か特別なことをしたというわけではないと思う。もちろん、わたしもそうだ。

 さて、カバーの折り返しには、"「奇蹟の人」ヘレン・ケラー女史の祈りと感動の自伝" と紹介されているけれども、この紹介文を書いた人は中身を読んでいないんじゃないだろうか。
 読めば、ヘレン・ケラーが自身を「奇蹟の人」などとは思っていないことは、すぐにわかるだろうのに。
 そこに違和感を覚えて調べてみたら、「奇蹟の人」とはサリバン先生を主人公にした、ギブソン作の演劇だった。「奇蹟の人≠ヘレン・ケラー」であって、「奇蹟の人=サリバン先生」ということらしい。

 それにしても、マーク・トゥエイン、グラハム・ベル、トーマス・エジソンなど、著名な人々がつぎつぎに出てくるのには驚き!とくに、電話の発明で有名なグラハム・ベル博士の、知らなかった側面がかいま見れたことは、楽しい発見だった。

 五感のとびらを開放して世界と触れ合うなら、そこに息づくなにかを掴めるような、そんな気持ちになりながらこの本を閉じた。

【07/8/8 追記】
 上ではいいことのほうを書いているけれど、ふと思い返すと『わたしの生涯』にはけっこう、欠点や失敗も書かれてたりするのだ。
 「偉大な人」というよりは、等身大のヘレンが見える。
 その時代を生きた女性のものの感じ方とか、どういうことを考えていたのかとか、そういうところが面白い。
 自己中心的になりがちであるとか、自我を通そうとするところとか、「うわー、わかるわかる!」となんだか自分を見ているようで、どきどき。
2007.08.07 | Bookshelf: 本棚  
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