
よく、もののたとえに人生を物語になぞらえるけれども、精神科医である著者は童話や昔話といった「物語」を利用して、患者に患者自身の物語を与える。そして患者は自分自身の物語を語りはじめ、それぞれの思いを胸にそれぞれの人生―物語をまた続けていく。
童話や昔話、絵本のお話と患者自身の物語が交錯しながら、わかりやすく平坦な言葉で12編の短い物語がつづられていくのが「診療室にきた赤ずきん」だ。
患者はときに赤ずきんであったり、ジャックと豆の木のジャックであったり、ねむりひめであったりする。ひとつの物語の中の誰か一人の役だとは限らず、ひとりが赤ずきんであったり狼であったりもする。
また、患者の物語はそのときそのときで変わり、人生の物語とは限らない。医者が接することのできる患者の人生は、そのほんの一端だからである。
物語がぴったりとはまる、そのことに著者は奇妙な感じを抱いたそうだ。
「はまる」のはごく一部なのではないか、こじつけではないかと思うと同時に、そういうこともあるのだろうという印象もいだく。それが本当かどうかは、じっさいに精神科で働いてみないとわからない。
けれどももののたとえではなく、たしかに人生は物語なのだろう。
自分の物語が見えなくなったとき、だから人生が無意味に感じるのかもしれない。
2006.03.04 | Bookshelf: 本棚