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Amazon.co.jp:ぼんくら (上)Amazon.co.jp:ぼんくら (下)
 わりに時代物が好きで、けっこうよく読んでいる。
 4年半ほど前に入院したとき、暇をもてあまして院内図書館から借りてきた池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』にはまり、『仕掛人藤枝梅安』シリーズもそのあと次々に読んだ。
 司馬遼太郎さんの作品も父親が好きで、実家の本棚に並んでいたのを何冊か読んでいるし、もちろんこの『ぼんくら』の作者である宮部みゆきさんの時代物も手にとっている。霊験お初回向院の茂七にもなじみが深い。
 宮部みゆきさんの時代物では、等身大の人間の姿や普段の町人の様子、ひょいと何かが顔を覗かせる怖さなどが軽妙洒脱な語り口でつづられており、つい引き込まれてしまう。なにより、出てくる人に魅力がある。それも、現代で言うカリスマというのではない。小ずるかったり、失敗ばっかりしていたり、ちょっと短気だったり、だれにでもあるような欠点がある。でも、なんだか憎めないし、そこがいい。

 この『ぼんくら』の主人公、井筒平四郎も掛け値なしの「ぼんくら」同心だ。仕事に対する熱意とか、やる気とかをどこかに置き忘れてしまったんではないか、というような、だらりとしたお人である。
 でも、肩肘をはらないその「ゆる~い」感じが、平四郎ほどにはぼーっとしていない物語のなかにあってはちょうどいい。他の登場人物もこれまた個性的で、次第に緊張感をましていく物語にすがすがしい風を吹き込んでいる。
 それにしても。いろいろなものに対してぎちぎちに厳しくあることや、許せないと思い込んでしまうことはよくあることだが、一歩まちがうと何か恐ろしいところに落ち込んでしまうのではないかという気がしてならない。それを昔の人は、幽霊であったり、なんらかの怪異として感じていたのだろうか。
 世の中にはいろんな人がいて、その「いろいろ」が受け入れられないと、この世は息苦しいものになってしまいそうだ。
 人ごとではない。まっとうに健康でお天道様の下を歩いている、ということはとても貴重なもので、いつなんどき自分も「そちら」に落ちるかわかったものではない。いや、「自分がまっとうで健康に生きている」ということも、実は思い込みなんではなかろうか。
 そう考えると背筋が寒くなったが、平四郎を見習って、考えてもしょうがないのであんまり考えすぎないようにしようかな、というところに落ち着いた。

 蛇足かもしれないが、本作はこんなことを考えなくても、素直に笑いありスリルありでテンポよく楽しめる作品だと思う。
2008.02.28 | Bookshelf: 本棚  
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